デモクラシーの生と死 (上) (日本語) 単行本
ジョン・キーン (著), 森本 醇 (翻訳)
Publisher: みすず書房 23 November 2013
Language: Japanese
ISBN: 9784622077435
Introduction:
デモクラシーは古代ギリシアに誕生した、というのは本当か?
デモクラシーの理念と制度は、いかにして今日の形になったのか?
デモクラシーの隆盛が高らかに宣せられるかたわら、
世界中のデモクラシー国家の先行きに不安を感じる人びとが急激に増えているのは、なぜか?
政党政治や議会制は機能しているか?
議会外運動や世論動向は、デモクラシーとどう関わっているのか?
グローバルな経済体制・軍事体制は、デモクラシーにとってどんな意味を持つのか?
古代ギリシアに先立って「集会デモクラシー」を生み出していた東方の起源に始まり、ギリシアのデモクラシーの盛衰と、イスラム世界が灯し続けたデモクラシーの火をたどった本書は、「代表デモクラシー」の来し方を、ヨーロッパやアメリカ合衆国、さらにラテンアメリカを舞台に物語る。
記念碑的な「デモクラシーの世界史」たる本書が目ざすのは、デモクラシーをデモクラティックに語ることである。それゆえ、デモクラシーを欧米中心主義から脱却させ、普遍主義から解放し、そのヒュブリス(傲慢不遜)を払拭しようと腐心する。デモクラシーとは、謙虚な人びとの、謙虚な人びとによる、謙虚な人びとのための自己統治にほかならない。
代表デモクラシーを誇ったヨーロッパであったが、20世紀にかけてデモクラシーの墓場になって行く。パワー・ポリティックスという処刑台にデモクラシーをかけ、社会的紛争と政治的独裁の恐ろしい地獄に全世界を引きずり込んだのである。ところがインドで、代表デモクラシーが新たな脱皮を見せようとしていた。そして1945年以降、あらゆる大陸で起こったデモクラシーの奇蹟の数々! 本書は、「モニタリング・デモクラシー」という未踏の領域に足を踏み入れ、読む者をデモクラシーの過去と現在に向き合わせるのみならず、デモクラシーの未来に導こうと試みる。いったいデモクラシーに未来はあるのか、それともデモクラシーは、この地球の極氷とともに、やがて溶け去る運命にあるのか? 画期的な「デモクラシーの世界史」たる本書は、生まれては死に、死んでは生まれるデモクラシーの謎を、豊富な史実と深い人間洞察にもとづいて彩り鮮やかに描き出す。
本書は問いかけ、そして答える――なぜ今、デモクラシーなのかを。
全2巻。
著者略歴
ジョン・キーン (John Keane)
1947年、オーストラリア生まれ。政治学者。アデレード大学、トロント大学、ケンブリッジ大学で学ぶ。現在、シドニー大学およびベルリン科学センター(WZB)の政治学教授。2011年、シドニー・デモクラシー・イニシアティヴ(SDI)を創設。
本書のほか主な著書に、25カ国語以上に翻訳されたThe Media and Democracy (1991) 、Democracy and Civil Society (1988; 1998), Reflections on Violence (1996), Civil Society: Old Images, New Visions (1998), トマス・ペイン、ヴァーツラフ・ハヴェルの伝記など。近著には、Global Civil Society? (2003), Violence and Democracy (2004). 2013年、Democracy and Media Decadance を刊行。なお、現代世界に対する幅広い言動とその反響については、著者自身のホームページ(johnkeane.net)でも詳しく知ることができる。
訳者略歴
森本醇〈もりもと・じゅん〉
1937年北九州生まれ。翻訳者・編集者。
訳書 池上英子『名誉と順応――サムライ精神の歴史社会学』(NTT出版)マイケル・マン『ソーシャルパワー:社会的な〈力〉の世界歴史I』(共訳、NTT出版)トニー・ジャット『ヨーロッパ戦後史・上』『荒廃する世界のなかで:これからの「社会民主主義」を語ろう』(以上、みすず書房)など。
解説者略歴
猪口孝〈いのぐち・たかし〉
1944年新潟市生まれ。政治学者。現在、新潟県立大学学長。東京大学名誉教授。専門は、政治学、国際関係論。政治学博士(マサチューセッツ工科大学)。1982年、『国際政治経済の構図』(有斐閣)でサントリー学芸賞受賞。
著書『国際関係の政治経済学』(東京大学出版会)『国家と社会』(東京大学出版会)『現代国際政治と日本』(筑摩書房)『地球政治の構想』(NTT出版)など多数。訳書 デイヴィッド・ヘルド編『論争グローバリゼーション――新自由主義対社会民主主義』(岩波書店)R・D・パットナム編著『流動化する民主主義』(ミネルヴァ書房)など。ジョン・キーンとの共編著に『現代民主主義の変容』(有斐閣)がある。
2014-02-02 「朝日書評」証拠を突きつけ、過去の常識覆す by 水野和夫(日本大学教授・経済学)
2014-01-28 「日本経済新聞」デモクラシーの生と死(上・下) ジョン・キーン著 世界規模での実践の歴史を詳述 by 北海道大学准教授 吉田徹
2014-01-01 『デモクラシーの生と死』書評 by 出口 治明
日本の読者へ(ジョン・キーン)
『デモクラシーの生と死』を読むために(猪口孝)
いやな兆候、小さな夢
集会デモクラシー/代表デモクラシー/モニタリング・デモクラシー/いやな兆候
第一部 集会デモクラシー
アテナイ
血なまぐさい発端/アゴラ――とその神々/ヒロインたち……/……そして中くらいのヒーローたち/ヒトの足をもつ動物たち/ひよこ豆と訴訟/プニュクスの丘/直接デモクラシー?/デーモクラティア……/……そして敵対者たち/ヒュブリス(傲慢)/デモクラシーの終わり
東より西へ
銀行家/対位法/「ご先祖のデモクラシー」/古代東方における集会/ビブロス/原始デモクラシー?/アヌ/シリア‐メソポタミアの遺産/砂漠の孤児/モスク/あらゆる支配者に従え?/ミルクとクリーム/諮問/メシュウェレット/ウルーバ
第二部 代表デモクラシー
代表制統治について
この世の不思議/代表制統治?/アルフォンソ九世/議会の普及/トーク・ショップ?/さてデモクラシーは?/自然と代表制/自由の聖域/都市共和国/人民?/楯と味方/デモクラシーと十字架/陪審制/謙虚な修道士/教会会議/コンスタンツ/初めに言があった……/盟約/出版の権利/低地諸州における暴動/お金のために/王冠を戴く共和国/国王の文筥
アメリカの世紀
さなぎと蝶/酒と税と市民社会/騒乱罪/ジャクソン流デモクラシー/市民社会/貴族/剣を突きつけて/二つの人民/反奴隷制アピール/プロパガンティスト/タマニーの人材/マシーン政治/政党アレルギー/プログレッシヴィズム/デモクラシーのための道具作り/政府主導/幻影デモクラシー/無邪気さの帝国/最初のアメリカ人/購買力/優越の共和国
カウディジョ・デモクラシー
南方の同胞/カディス/海原を突き進む/カウディジョたち/デモクラティックな王たち/暗礁へと向かう潮流/赤い暴君/戦争と独裁/この国は…一度も投票したことがない/実験室/二重同時投票/カウディジョたちの復活
ヨーロッパという墓場
混乱した民衆の群れ/死すべき神々/三つのヨーロッパ/愛国者/ジャコバン派/大革命とヨーロッパ/修道士ジョルジョ/「社会民主主義」/ツァーリズム/ウェストミンスター・モデル/植民地/英領北アメリカ/バニップ貴族政/算術とデモクラシー/南十字星の下で/オーストラリア式無記名投票/ポリネシア共和国/天国の金切り声/本国ウェストミンスターでは……/改革の世紀/ネーションとナショナリズム/総力戦/デモクラシーの崩壊/なぜデモクラシーか?
第三部 モニタリング・デモクラシー
ベンガル菩提樹の木陰で
雲に乗って/良い統治とは?/運命との約束/偉大なる魂/われわれにカエサルは要らない/傷ついた虎/非常事態/市民社会/クォータ制/パンチャーヤット/ベンガル菩提樹デモクラシー/スターたち/インドは輝いているか?/矛盾だらけの生活?
大いなる変容
幾つもの奇蹟/ラテンアメリカ/ビロードの微笑み/「ノイズこそファッショナブル」/歴史の終わり?/第三の波?/豚とモスクと雨/モニタリング・デモクラシー/政治地理学/代表制/神々たち/創設選挙/市民社会/「人民の財産」/番犬/盲導犬/「サミット会談」/ジム・クロウ法/なぜモニタリング・デモクラシーか?/「平等にして譲ることのできない権利」/過剰コミュニケーション/感染政治
未来からの記憶
想像の歴史/政党政府/フレーズ合戦/超デモクラシー/国境を越えて/ナショナリズム/ホテル/暴力トライアングル/デモクラティックな平和/ぎこちない帝国/デモクラシーの新たな敵/偽善者たち/夢遊病者と運命論者/考え得る打開策とは?/二極構造の復活
なぜ、デモクラシーか?
デモクラシーというもの/謙虚さ/デモクラシーの新機軸/支配者のいない支配/平等/ヒュブリス
デモクラシーの新しい準則
訳者付記
注と補説
索引
『デモクラシーの生と死』の翻訳出版を機に来日した、著者のジョン・キーン・シドニー大学およびベルリン科学センターの政治学教授が、著書について説明した。民主主義の変遷は、集会制民主主義、代表制民主主義を経て、モニタリング民主主義の時代にあるという。選挙、政党、議会などは引き続き重要だが、機能が弱くなって来ている。そこに過去に存在しなかった、モニタリング機能を持つ、市民の組織やネットワークが、新たなインフラとして登場し、様々な政治課題に厳しい目を向けている、と。
司会 日本記者クラブ企画委員 星浩(朝日新聞)
通訳 大野理恵(サイマルインターナショナル)
2500年の民主主義の歴史を、上下巻で1千ページ近くに及ぶ『デモクラシーの生と死』(みすず書房、森本醇訳)にまとめたのがキーン教授だ。翻訳の刊行を機に来日。この日は約40分に凝縮して語った。
『生と死』には、ギリシャ以前に存在したメソポタミアの民主主義など驚くべき話が満載されているが、ほとんどカット。日本で特定秘密保護法案が審議中なのを承知していたのだろう、話を現代の「モニタリング・デモクラシー」に絞った。
選挙の時だけでなく、権力が行使される場面を何らかの組織やネットワークが見つめているのがモニタリング・デモクラシー。キーン教授の造語だ。発生は戦後。黒人の公民権や女性の人権、地球温暖化や貧困など戦後の重要問題は、政党や政府ではなく、モニタリングをする市民の組織やネットワークが提起してきたと指摘する。
インターネットなどの情報革命で、世界のモニタリング組織はさらに力をつけた。一方で、特定秘密保護法のように、頭を押さえつけようとする動きも広がる。質疑応答では「部外者だが、憲法9条改正につながるのではと不安だ」と語った。
朝日新聞東京本社報道局編集委員(文化くらし報道部) 村山 正司
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